高良玉垂神秘書 第一条
天照大神の御子は、四人おわします。三人は天照大神より四代まで継ぎたまう 正哉吾勝々速日天忍穂耳尊の御弟をは 天津彦々瓊杵尊 此御弟をは彦火々出見尊 此御弟を彦ソソリノ尊申したてまつります。このソソリノ尊は神代を継ぎ給わざる故に海の遠くへ参らせ給うなり。
ある時、彦火々出見尊が弟彦ソソリノ尊に釣針を借り給いて、兄の彦火々海原に出給いて、釣り針を海に入れ給う。アカメクチというもの、この釣針を食切る。御弟彦ソソリノ尊の持ち伝えの釣針なれば、兄の彦火々出見尊、呆然と呆れて立給う所に塩土の翁と云うもの、着たり曰く。吾皇子にて御身の御徳を忘れず。今現れ来たりなり。その御霊を申さんとて、ナメシカゴ(目無籠)と云うものに、彦火々出見尊を連れ奉り海中に招き入れれば、ほどなく竜宮界に着き給われる。
竜王の娘と彦火々出見尊は夫婦となり給えり、豊玉姫は妊婦となり臨月となり給う。産所を造り給えと仰せければ、鵜羽をもって葺き給う。葺き合せている最中に出産給う。これにより、この御子の御名を彦波瀲武鵜草葺不合尊と申すなり。
これまでの事を次第に竜王に申し給えば、応えていわく、この世界に三年逗留されれば、その間に願いを達して申すと云いければ、彦火々出見尊そのとおりに致す、と仰せられる。
竜王「諸々の魚寄せ集めよ」とアカメクチに伝えれば、しきりに寄せ集められ、諸々やってきたアカメクチのその中に、頬腫れて異なる口を開けてみれば、釣針見つかり、その釣針を密かに取りて、竜宮へ納め給う。竜宮の娘と彦火々出見尊へ渡しまいらせけり。彼釣針を取り出し、彦火々出見尊へ渡らせまいられけり。彼釣針を受け取りて、夫婦共に竜宮を出で、海上にほどなく揚がり給いて、彼釣針を御弟彦ソソリノ尊へ返し給いけり。豊玉姫懐妊人なりと給う、さんしょさく玉へ遠ざければ、鵜羽をもって葺き給う、葺き合わせるうちに、生み給う、これよりその御子の名は彦波瀲武鵜草葺不合尊と申すなり。豊玉姫とお避けるうちは百日をまんしてよりご覧あれ、とお避けれともまじか子給いて,九十九日にあたるとき、彦火々尊、ものの隙間よりご覧するに、豊玉姫はたいしゃとなって、七又の角の上に その御子を置きまいらせ、したをもって子降り給う、ことを通りきにしてしろしめし、御子を玉依姫と甥の彦波瀲武鵜草葺不合尊はやがて夫婦になり給う。
彦波瀲武鵜草葺不合尊は住吉大明神なり、その御子住吉五神といい二人は女子 三人は男子 二人の女子の名前は表津少童命 中津少童命と申すなり。男子の名は長男大祝先祖の名は表筒男と申すなり 次男神武天皇の名は中筒男 三男高良大菩薩の名は底筒男
皇代十五代神功皇后のとき、イルキ 日本に渡る、その時筑前四王寺の峰に上り虚空を祈り給う。~中略~明星天子の垂迹住吉明神表筒男七旬老翁と現れ給う、その御子嫡男日神垂迹表筒男、二人現れ給う 三男月神ノ垂迹底筒男~中略~三韓をせめ従え給う 男月神ノ垂迹底筒男ノ尊 皇后と夫婦となり給う 嫡男の垂迹底筒男は皇后の御妹 豊姫と夫婦となり給う。男月神ノ垂迹底筒男 物部(阿部)保蓮と申したまう。別名 藤大臣 四人の皇子は仲哀天皇の皇子なり、五人は藤大臣の子 合わせて九躰皇子なり。妹豊姫は肥前国で河上明神となり給う~中略~安曇磯良は筑前国では志賀 常陸の国では鹿島 大和の国では春日明神
皇代十七代仁徳天皇次時、神功皇后崩御ありければ、高良明神、豊姫、玄孫大臣 その御子大祝日往子尊 武内大臣 皇宮を共に出給う、武内大臣は因幡国に立ち残り、炉辺に靴を脱ぎ棄て、御衣を木の枝に掛け山の奥に入給う隠れるとこを知らすなり、残り四人は皇宮よりはるばる行き豊姫 玄孫大臣は肥前国に留まりて豊姫は河上大明神となり給う
高良玉垂宮神秘書第一条
天岩戸の後(中略)樋の川の奥へ入り給う。その川の川上より箸一対流れ下る、人が在ると思し召し、川を伝いに入り給う。片原に在家見えたり。立ち寄りてご覧ずるに、夫婦と姫一人みえたり。泣き悲しみ限りなし。スサノヲ尊、尋ね給う。いかなる人にてあるか?答えていわく。この浦は三年に一度、この川に「いけにえ」あり。今年はわが姫に当たりて、男の肌に触れない女を「いけにえ」に供えるなり。スサノヲ尊聞こし召す。ここに至って、そういうことであるならば、悪龍を退治すべしと仰せおれば、翁、答えて申す。御意にそうすべし。喜びいわく、翁夫婦の名を足名椎(あしなつち) 手名椎という。姫の名を稲田姫と云うなり。
スサノヲ尊その意を得て、まず、「ヤハシリ酒」という毒酒を作りて、舟一艘に積み、上の社に段を構え、姫の形に人形を作り置きたまう。
風水龍王、人形の形が酒に映りて、酒の下に人があると思いて、毒酒を飲み干す。もとより、かくのごとくせんがための企みであれば、川岸に酔い臥したり。スサノヲ尊、これをご覧じてトツカの剣を抜きて、散々に切りたまう。八の尾をことごとく切り給う。その中の一つに切れない尾があり、ご覧ずるに、氷のごとくになる剣あり。取りてご覧ずるに、後の天照大神の三種のうちの宝剣なり。この剣は近江国の伊吹山にて失いたまう。(中略)
スサノヲ尊、宝剣をもって、もとの斎所にもどられ、神たち集まりて、この宝剣を天照大神に贈呈され、喜びはかぎりなし。その時、スサノヲ尊と天照大神仲直りたまう。
(中略)
この宝剣は風水龍王の八つの尾の中の尾にあり。剣のあるところから煙立ちて叢雲のごとくに在るにより、叢雲の剣と申すなり。
その後、草木に火をつけ国土を焼かんせしを伝え聞き、この剣をもって草をなぎ払いたまう。この時より草薙の剣と申すなり。